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千葉地方裁判所 昭和44年(ワ)401号・昭43年(ワ)364号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

価額の弁償の抗弁について

被告延枝は、原告等に対し、遺留分減殺請求の対象となつた目的物の価額を弁償し、その結果、原告等は同目的物件について権利を失つたとの抗弁について検討する。

1 被告延枝が、原告両名に対し、主張の日、主張の金員を、その価額弁償として提供し、その受領を拒絶されたため、原告正悟に対しては昭和四五年三月二五日、一〇九八万〇、五〇〇円を、原告平悟に対しては同年六月二三日、九四六万六、五〇〇円を、いずれも供託したことは、当事者間に争いがない。

2 右価額弁償額が相当であるか否かの点について検討する。

(一) 遺留分算定の基礎となる財産

(1) しづが死亡し、その相続開始の時において有していた財産は、遺贈物件を含め、第一乃至第五物件が存在していたことは、当事者間に争いがない。

第四物件は、当初、原告等の主張から脱落していたものであるが、<証拠>によれば、しづの遺言当時、市川市大野町二丁目一八八三番の二の土地は、昭和四〇年一一月一三日、既に同番の二、畑三反二畝七歩と、同番の四乃至八に分筆されており(第四物件1の一八八三の四の畑は九二平方米、同2の一八八三の五の畑は四六平方米、同3の一八八三の六の畑は二八〇平方米)、同番の二はもともと三反九畝二二歩の畑であつたところ、しづは、分筆前の一八八三番の二、3,937.18平方米(三反九畝二二歩)として遺贈物件の表示をしたものであり、第四物件は、被告延枝に対する遺贈物件に含まれているものである。

(2) 第六物件1、2の物件が原告平悟の所有であることは、当事者間に争いがないところ、同物件は以下のとおり同平悟がしづから、同人の生前、婚姻及び生計の資本として贈与を受けていたものと認められ、これは民法第一〇四四条により遺留分の算定の基礎となる贈与に含まれる。

原告等は、同物件は治助より贈与を受けたものと主張するが、<証拠>を総合すれば、治助は、生前、しづの二男である平悟に対しては、同人に家を建築してやると言明しており、その敷地となる農地について宅地転用手続を行つているうち死亡し、その後は、上記認定の経過により、しづが遺贈を受けた同土地上に、右平悟の建物を建築して同平悟の所有と登記して、同人にこれを贈与したものであることが認められ、しづは遺言書においてこれを明確にしているものであるから、右土地、建物は、おそくとも建物の保存登記を経由した昭和四〇年三月頃迄、いずれも原告平悟が、しつから生前贈与を受けたものといわざるを得ない。

(3) 被告延枝は、原告正悟は、しづから生前七〇万円と埼玉県所在の土地の贈与を受けていると主張するが、上記認定のとおり、同正悟は、治助の金員を持出し費消し、治助所有の同土地を擅に処分したものであつて、しづからこれ等の贈与を受けたものとは認められず、これは、遺留分算定の基礎となる贈与には含まれない。

尚、上記<証拠>によれば、同正悟に対し、しづは第七物件を遺贈する旨の遺言を行つているが、しづが同物件を生前他に処分し、これはしづの遺産に含まれないことは、当事者間に争いはない。

(二) 価額の供託

(1) 被告延枝は、価額弁償金の算出の根拠として、原告両名が本訴において遺留分減殺請求を主張し、遺産総目録として提出した(昭和四三年八月八日受付)訴状添付の物件目録見積額の価額とし、第四物件については、当初の主張から脱落していたため、当裁判所の鑑定の結果の価額を採用して主張しているものである。

更に原告等の被告延枝に対する遺留分減殺請求の意思表示においても、同様の見積額を主張して遺留分減殺の割合を算出している。

(2) 上記のとおり、本件価額弁償金の供託されたのは、原告正悟に対し昭和四五年三月、原告平悟に対しては同年六月であり、原告等の上記主張のなされた時からほぼ二年近く経過しているとしても、右見積額によれば、土地については、その評価額の一〇倍に近い金額(第二物件4、5)のものは僅少であり、殆ど山林、田畑は一〇〇倍前後の見積額となつており、被告延枝は原告等の主張の金額を容認して、これに従つて価額弁償金を算出しており、又、同延枝は、昭和四五年二月五日付の準備書面(翌二月六日陳述)をもつて、右見積額に従い価額弁償をする予定である旨を主張し、これに対して原告等はその見積額を失当と主張することなく経過し、供託後にその不当を主張しているものであり、右供託額も次項に認定するとおり、原告正悟に対する具体的な遺留分額を上まわるものであり(同平悟に対するものは後記のとおり)、同正悟に対する供託は適法になされたものといわざるを得ない。

(3) 前項認定の見積額に従つて、価額弁償金を算出すると次のとおりとなる。

(イ) 全遺産価額

上記遺留分の基礎となる全遺産価額は、別紙目録第一乃至第六記載(第四物件は斉藤鑑定による二〇八万八、九〇〇円とする)の見積額となるので、合計六八四四万八、九〇〇円となる。

(ロ) 延枝

延枝が遺贈を受けた第一、第二、第四、第五物件の価額合計は、六四三〇万一、九〇〇円となる。

(ハ) 正悟

原告正悟の遺留分額は、全遺産の二分の一である三四二二万四、四五〇円について、同人の相続割合であるその三分の一である一一四〇万八、一五〇円となる。

(ニ) 平悟

原告平悟は、前記同様、基礎となる財産の価額の六分の一である一一四〇万八、一五〇円が遺留分額となるが、同人は第六物件(一三四万七、〇〇〇円)の贈与を受けており、これを差引くと、遺留分を侵害される額は一〇〇六万一、一五〇円となる。

(ホ) 本来、しづの遺言において、延枝のほかに原告正悟の子秀明に対して、第三物件が遺贈され、その価額は二八〇万円であるところ、被告延枝の遺留分額は、上記原告正悟同様、一一四〇万八、一五〇円であるから、これを上記延枝の贈与を受けた価額合計六四三〇万一、九〇〇円から差引くと、五二八九万三、七五〇円が延枝の減殺を受けるべき財産となり、秀明は相続人ではないから、原告等の遺留分額はこれにより按分した額となる。(民法一〇三四条)

従つて被告延枝に対する遺留分額は原告正悟が一〇八三万四、六〇五円、原告平悟は九五五万五、三二六円となる。(原告平悟への供託額は不足するが、後記のとおり)

(三) 予備的価額の供託

(1) 被告延枝は、上記供託が、当裁判所の鑑定結果(斉藤鑑定という)による評価額から足りないものとなつたとしても、原告正悟に対して追加供託を主張しているので、この点についても検討を加えることとする。

(イ) 斉藤鑑定によれば、各物件の昭和四五年六月二三日当時の価額は、別紙目録斉藤鑑定価額記載のとおりである。

原告等は、同鑑定は失当であり、<証拠>により、河合鑑定が正当である旨を主張している。

しかしながら、<証拠>によれば、斉藤鑑定がB地区(第二物件9乃至15)を農家住宅地、C地区(第二物件16乃至24)、E地区(第二物件20乃至30、第三物件)を耕作地、D地区(第二物件25乃至27、第四物件)を畑作地として、これを前提として判断したことが価額の差が生じた主たる原因と主張しているところ、鑑定基準時点より後に発表された都市計画上の区画指定(昭和四五年七月三一日)によつても、B地区、E地区は市街化調整区域であり、又C地区においても、河合鑑定が行われた昭和五四年時点において、現に区画整理事業が行われている途中(上記甲第一四号証の二C地区の写真)であり、同地区は昭和五一、二年から本格的な開発が行われるようになつたこと、D地区においても、現在は同所付近の宅地化が進行しているが、各物件は農地である旨を同証人は供述しており、更に、右証人は、これ等宅地化の進行しているところ、及び都市計画上の住宅地指定とされているC、D地区は、これを尊重して宅地又は宅地見込地として評価を考えるべきであり、E地区も市街地と考えるべきである旨を供述しているが、上記のとおり、本件供託時は、いずれもその区画について住宅地の指定はなく、地目は一部を除きいずれも農地であり、延枝の農業用資産であつたことから、その時点において宅地化見込をもつて、これを評価するのは相当ではない。

従つて、斉藤鑑定をもつて相当とする。

(ロ) 右鑑定によれば、遺留分の基礎となる財産第一乃至第六物件の価額は、合計九二二七万四、八五〇円となる。

原告等はその六分の一である一五三七万九、一四一円が遺留分額となるところ、原告平悟は、第六物件価額八二五万円の贈与を受けているため、これを控除すると右平悟は、七一二万九、一四一円が具体的遺留分額となる。

更に、秀明も第三物件の遺贈を受けているところ、同人はしづの相続人ではなく、被告延枝が贈与を受けた第一、第二、第四、第五の価額は合計八一四三万九、四五〇円となるところ、同被告には遺留分一五三七万九、一四一円があるから、右遺留分を控除した六六〇六万〇、三〇九円が同延枝の減殺を受くべき財産の価額となる。

秀明の受遺物件の価額は、二五八万五、四〇〇円となるから、これを按分すると、次のとおりとなる。

従つて、被告延枝に対する具体的遺留分請求額は、原告正悟は、一四七九万九、九一七円、原告平悟は六八六万〇、六三六円となる。

(ハ) 以上であるから、被告延枝の原告平悟に対する供託は、これを超えるものであり(当初の見積額によるものでは不足であつたとしても、斉藤鑑定によれば、上記供託額をもつて足りる)、原告正悟に対する当初の弁償供託額一〇九八万〇、五〇〇円は不足することとなるが、その差額は、三八一万九、四一七円であり、同人は、右斉藤鑑定にもとづき、昭和五五年二月二五日、不足額及びその遅延損害金として、合計六八八万五、一八六円を追加供託しているものであるから、合計一七八六万五、六八六円の供託があり、上記不足金の遅延損害金を含めても、右正悟の具体的遺留分額を超過している。

(四) 遺留分減殺請求による権利の失効

遺留分減殺請求に対する価額の弁償は、不動産価額の上昇の甚しい現在においては、価額弁償が現物の返還に代るものとしている法の趣旨から、価額弁償時の取引価額をもつて行うことが相当と解されるところであるが、本来、不動産の価額について双方に紛争があり、即時に適正な価額を確定することが困難な場合に、上記のとおり、原告等の主張に従つて被告延枝が価額の供託を行い、これが後に当時の取引価額に若干足りないとしても、右価額の供託は一部の供託として有効であり、その後にこの不足額を供託すれば足りると解され、いずれにしても、被告延枝の行つた原告両名に対する価額弁償供託は有効である。

3 以上であるから、被告延枝の前記供託により、原告両名は同被告の受遺物件に対する権利を失つたものというべく、同抗弁は相当である。

(大内淑子)

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